財務省が2027年度の介護報酬改定に向けて「介護サービスは利益率が高い」として報酬の引き下げを主張しています。でも、その「利益率」という数字、本当に現場の実態を正しく映しているのでしょうか?
たす障害福祉の現場で働く者として、この議論を放っておけません。
引用元⬇️


財務省が言う「利益率が高い」とは何か
2026年4月28日、財務省は財政制度等審議会・財政制度分科会を開催し、2027年度の介護報酬改定に向けた議論を行いました。
そこで示されたのが、厚生労働省の調査に基づく各サービスの利益率データです。
| サービス種別 | 利益率(税引前収支差率) |
|---|---|
| 介護サービス全体(平均) | 4.7% |
| 訪問看護 | 10.3% |
| 訪問介護 | 9.6% |
| 通所介護 | 6.2% |
| 居宅介護支援 | 6.2% |
※2024年度決算。物価高騰対策関連補助金を含まない。
財務省はこの数値を「過去や他産業と比較して高い水準」と評価し、「介護報酬の適正化が必要」と主張。一部のサービスについては報酬を引き下げる余地があるとの見解を示しました。



一見もっともらしく聞こえる話です。でも、私はこのデータの読み方に大きな問題があると考えています。
訪問介護の利益率が上がった「本当の理由」
財務省が示したデータには、見落としてはいけない背景があります。
訪問介護の利益率は、2024年度改定の前は7.8%でした。それが今回のデータでは9.6%に上昇しています。
「報酬を引き下げたのに、なぜ利益率が上がるの?」
そう思った方、鋭いです。答えは単純ではありません。
2024年度改定で何が起きたか
2024年度の介護報酬改定で、訪問介護の基本報酬は約2〜3%引き下げられました。現場では悲鳴が上がりました。そして実際、訪問介護事業所の倒産件数は過去最多を記録しています。
倒産したのは、主に個人宅を一軒一軒訪問する地域密着型の小規模事業所でした。
ここで重要なのが「生存者バイアス(サバイバーバイアス)」という考え方です。
生存者バイアスとは?
経営体力のない小規模事業所が報酬引き下げで次々と廃業・倒産し、統計から消えた。残ったのは体力のある大手・中堅事業所だけ。その”生き残り組”の平均を取れば、利益率は当然上がります。
つまり「報酬を下げたら利益率が上がった」のではなく、「利益率の低い事業所が市場から消えただけ」なのです。



この歪んだ数字を根拠に、さらなる引き下げを行う。前回の「適正化」の結果がまさにそれでした。
大手と小規模を「同じ土俵」で比べるのは無理がある
利益率の議論をさらに複雑にしているのが、事業者ごとのコスト構造の違いです。
訪問介護事業所といっても、その実態は大きく異なります。
大手(有料老人ホーム・サ高住併設型)
- 同一建物に利用者が集中しており、移動コストがほぼゼロ
- 同一建物減算(報酬は下がる)があっても、スケールメリットで補える
- 施設運営との相乗効果で安定した経営基盤がある
小規模(地域密着型)
- 利用者宅を一軒一軒回るため、移動コスト・時間コストが大きい
- 山間部・過疎地では1件の訪問に往復1時間以上かかることも
- 経営の安全網となる他事業がなく、報酬変動の影響を直撃で受ける
コスト構造がまったく異なる事業者を「介護事業者」という一括りで平均値を出しても、現場の実態は見えません。平均値で一括りにすること自体に問題があるのです。
SNSで広がる「現場の声」
今回の財務省の方針に対し、SNS上では多くの現場従事者や経営者から声が上がっています。
「有料老人ホームやサ高住を併設して移動コストゼロで稼いでいる大手と、個人宅を一軒一軒回る小規模事業所を一緒にしてはいけない。引き下げ後に利益率が上がったのは、倒産で小規模が統計から外れて大手の数字だけが目立つようになっただけ。平均値だけを根拠に引き下げを続けたら体力のある大手だけが生き残り、地域を支えてきた小規模事業所は次々と淘汰されていく未来しか見えない」
「財務省の言う『利益率』は、現場が心身を削り、安全を死守し捻り出した血肉ですよ! 長年現場にいても毎日が命がけ。机上の空論のように数字をいじり、介護を知った気になるな。現場の1分1秒の重みを知らない財務省に、福祉の未来を決める権利はないと思う」



怒りの声、悲痛な声——。でもこれらは感情論ではなく、データが示す構造問題への正当な指摘だと私は思います。
障害福祉も「他人事」ではない
私は障害福祉サービスに携わっていますが、今回の介護報酬をめぐる議論は障害福祉にも必ず波及すると見ています。
介護保険と障害福祉は別制度ですが、財政論の文脈では同じ「社会保障費」として括られます。財務省が介護報酬に対して「利益率が高い=報酬を下げる余地がある」という論理を採用した場合、障害福祉サービスの報酬改定にも同じ議論が持ち込まれる可能性は十分あります。
グループホームや就労継続支援など居住系・日中活動系サービスでも、平均値だけを見た「利益率の高いサービスは下げる」という論理が適用されれば、同じ構造的問題が起きるでしょう。
障害福祉従事者が注視すべきポイント
- 2027年度は介護報酬と障害福祉報酬の同時改定のタイミング
- 財政論の「効率化・適正化」の波は、障害福祉にも同様に来る可能性がある
- 利益率データが今後、障害福祉でも議論の俎上に乗せられる恐れがある
「稼いではいけないのか」という根本的な問い
私は以前から感じている疑問があります。「福祉事業は利益を出してはいけないのか」という問いです。
私自身、スキルアップと転職を重ねながら、今の株式会社で働いています。なぜ株式会社を選んだか。それは利益を求めているからこそ、給与水準が高く、設備投資や研修にもお金をかけられる環境があるからです。
利益があるから、良い人材を採用できる。良い人材がいるから、利用者に質の高いサービスを届けられる。これは当たり前のビジネスの論理ですが、福祉の現場でも同じことが言えます。
物価が上がり、光熱費も上がり、賃上げも求められている今、報酬を下げるという発想は現場感覚とまったく噛み合っていません。
「福祉だから儲けてはいけない」という思い込みが、じわじわと業界全体の体力を奪っていると思います。利益を出すことは、サービスの質を守るための前提条件です。
まとめ:平均値の罠と、失われていく地域の担い手
財務省の主張を整理すると「利益率が高いから報酬を下げる」という一見合理的な論理です。しかし今回見てきたように、その数字は生存者バイアスによって歪められた平均値であり、大手と小規模のコスト構造の違いを無視した乱暴な議論です。
前回の「適正化」の結果、地域を支えてきた小規模事業所が次々と倒れました。このまま同じ論理で引き下げを続ければ、体力のある大手しか生き残れない構造が加速します。サービスの選択肢が減り、地域格差が拡大し、最終的に困るのは利用者です。
介護・障害福祉の現場に関わるすべての人が、この議論の行方を注視していく必要があります。
この記事のポイントまとめ
- 財務省は訪問介護の利益率9.6%を根拠に報酬引き下げを主張
- しかしこの数字は、2024年改定後の倒産ラッシュで小規模事業所が統計から消えた結果
- 大手(施設併設・移動コストほぼゼロ)と小規模(個人宅訪問)を平均で比べるのは無理がある
- 同じ論理は障害福祉にも波及する可能性がある
- 利益を出すことは、福祉サービスの質を守るための前提条件








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